げんろんのじゆう

人生は与えられたカードでの真剣勝負

読書録 20/2

2月は5冊読みました。

 

i (ポプラ文庫)

i (ポプラ文庫)

 

日本人とアメリカ人の両親の元に育つ、シリア生まれの一人の女性とそれを取り巻く人の話。文章の読みやすさとは裏腹にものすごく重たく繊細なテーマと人間味。

個人的には特定のフレーズを何度も何度も強調してくる手法はわざとらしさが目について逆に冷めてしまいましたが、パンチのある文章が山積みですごい作品だなと思いました。

僕も恵まれた立場の人間ですが、アイのように世界中全ての人に思いを向けることはできず、目につく・手の届く範囲には手を差し伸べても国内の被災者などに対しては寄付をするかしないか(それも気持ち的な部分より責務感が先に立って)といったところです。そんな自分が嫌で、大学生のいつからか「目に留まった人、気付いたこと、そうしたいと思った時だけでいい。それもまた縁や巡り合わせなのだから」と割り切ることにしましたが、未だに自分自身しっくりきてはいません。(完璧主義的な性格の表れかもしれませんが) ただまあ、この世界に愛は存在すると思います。

 

片眼の猿―One-eyed monkeys (新潮文庫)

片眼の猿―One-eyed monkeys (新潮文庫)

 

特殊能力(?)を持つ探偵のハードボイルド小説、と思いきや安定の道尾ワールド。思い込みを覆されてきちんと収束する感じとか、偏った見方をしがちな社会へのメッセージ性なども感じて良かったのですが、ストーリー的にも扱うキャラクター的にもどこか気持ちよくスッキリ!という訳にはいかなかったので読後感はまあまあといったところでした。他の面白い作品を知ってるからこそ期待のハードルが高いのもあったかも。

 

友達未遂

友達未遂

  • 作者:宮西 真冬
  • 発売日: 2019/04/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

表紙、タイトル、あらすじからしイヤミスのにおいがプンプンしたのですが、実際にはそんなことはなくて驚かされました。いわゆる青春小説ともまた違いますが、4人の少女それぞれがコンプレックスや葛藤を抱え、それぞれが見えないものと闘う様はまさしく成長物語。もう少し読む前に思った通りの感じに進んだら恩田陸とか湊かなえが書きそうだなと思いました。

また、子供の時にはなかなか気づけないことですが、大人だって悩んだり苦しかったり悪い人は今更変わらなかったり、実は色々考えてくれていたりすることはたくさんあるんですよね。最近は社会人として、大人というか社会を運営する側の気持ちがだんだんと分かってきたので特にそう感じたのかもしれません。

 

f:id:genuinegen:20200301062323j:image『ここは空気の通り道』 作者非公開(写真ではモザイクで隠してあります)

 

大学の後輩が卒業制作で作った短編小説集+短歌集を1部貰いました。本人掲載許可済みです。(市販の作品ではない分どこまでネタバレに気をつけるべきなのか分かりませんが、普段通りの温度で書こうと思います。でも自分で読める人は読んでから見てください)

最初の2編はアイドルグループに所属する(した) 2人の少女が不器用にお互いを想う話。文章も構成も好きなのですが、どうにも同学部を1期生として卒業した朝井リョウの影がちらつくな〜と思っていたところ、あとがきにて朝井リョウの『桐島、部活やめるってよ』に衝撃を受けたことが志望のきっかけになったというエピソードがあって納得。朝井リョウでアイドルといえば『武道館』ですね、もちろん。個人的にこの2編は全編を通して一番好きな話で、作者自身も好きな作品だとのこと。

次の短編はどちらかというとバッドエンド寄り。書き方がやや技巧的になっててイマイチな気がしたけど、今読み返したらそんなこともなかった。救いが提示されない話はあまり好まないのですが、文章も内容も幅の広さだと捉えました。あと2020に向けた話題とかが出てくるあたり、単に今しか書けないことを書いたということ以上に、卒業制作としては自分が卒業する間際の1年間を切り取って残す意味合いが強くて好きだなと思ったり。意図してかは分かりませんが。

次の短編は若さの中で傷つき傷つけを通して描かれる女子高生の話。若者の「リアルな痛さ」が上手に描かれていて、これまた朝井リョウを意識させられる。『少女は卒業しない』に入っててもおかしくなさそう、と本人に伝えたところ、朝井リョウ作品の中で一番好きだから嬉しい!とのこと。ちなみに僕も『少女は卒業しない』が一番好きです。

最後の短編は深大寺短編小説賞の受賞作ということで、綺麗に仕上がっている話でした。調べたところ受賞作は作品集として販売されるようなので、入手しようとすれば誰でも読める機会があるかもしれません。恋愛小説としてももちろんですが、作中に登場するそばぱんが気になって調べてしまい、行ってみたいなと思わされたあたり、流石だなと思いました。

最後に短歌10編と二十一文字作品。現代短歌は詳しくないながらも好きということで一応最低限の感性は持っているつもりなのですが、どれも心地よい余韻が残る作品で大変良かったです。わざわざ10編に絞ってるんだから珠玉のものを集めてる=良いに決まってるんですけど。2つ解釈に悩むものがあったのですが当然本人に聞くという野暮なことはできず、語れる相手を探しています。

総合的には作品そのものの質に加え、初めて知り合いが書いた作品をしっかり読んだということもあって非常に楽しく読めました。その人に所縁のある地名が登場したりすると、どういう意図でこの土地を選んだのか考えたり、普段とは違った楽しみ方も味わえて良かったです。

 

medium 霊媒探偵城塚翡翠

medium 霊媒探偵城塚翡翠

 

タイトルからして手に取らないタイプのやつだなと思っていたところ、書評が軒並み評価高かったので気になった。どうしてもネタバレになるから感想書きづらいんですけど、そもそもネタバレがあるとかどんでん返しがあるとか「あなたは必ず騙される!」とか言っちゃうの、それ自体がほぼグレーなネタバレだよなと常日頃から思っています。

ひとつ言えるのは、最初2編辺りだけだったら酷評してたけど、最後まで読んだらなるほどねやるじゃんと評価を改めたくらいにはしっかり最後まで読んでほしいということです。作品全体を通してしっかり作り込まれていること、本格派でありつつも新たな試みが用いられていること(僕が知らないだけかもしれませんが)を加味すると周りの高評価も納得かなと。ある意味(2つくらいの意味)で『屍人荘の殺人』を彷彿とさせるところはありますが、僕はこちらの方が好きでした。



ということで2月は以上です。まあまあしっかりやっていたスマホゲームのサービス終了が告げられ、ポケモンについてもスタートダッシュの熱が冷め、遠出する機会もあったということで、仕事から帰って動画見て寝るだけの生活にしてはまあまあ読めたかなと思います。

 

新型コロナウイルスの影響で外出が直接・間接的に制限されること、タダ本サービス一時停止などがあるので来月もある程度読めたらと思います。